西九州新幹線の建設計画については、国と沿線自治体の間で意見の食い違いが生じています。
佐賀県は膨大な財政負担や住民の意向を踏まえ、建設に否定的な立場を取っています。
このブログでは、佐賀県の反対理由や国との溝、新幹線建設に伴う負担などの問題点を詳しく解説していきます。
- 西九州新幹線の建設計画の流れ
- 佐賀県が新幹線整備に反対する理由
- 佐賀県「新幹線計画そのものが存在しない」
1. 福岡・長崎間を新幹線で結ぶ計画の経緯
スーパー特急方式
1972年、福岡と長崎を結ぶ新幹線の基本計画が国によって策定され、1973年には正式に決定されました。
この計画は、福岡市から佐賀市、そして長崎市に至る区間が含まれています。
西九州新幹線の具体的なルート案が最初に決まったのは1992年です。
このときの案では、博多駅~武雄温泉駅は在来線を活用し、武雄温泉駅~長崎駅は新規路線を整備する『スーパー特急方式』よる整備でした。
スーパー特急方式に関してはこちらをご覧ください。
この計画案に、佐賀県は合意します。
フリーゲージトレインの提案
ただ、スーパー特急方式採用では、博多駅と長崎駅の所要時間は、現行の在来線特急より15分程度しか短縮できません。
費用対効果の面での問題がありました。
そこで、2004年12月に国は、スーパー特急方式による在来線区間(博多駅~武雄温泉駅)について、『フリーゲージトレイン』の活用を提案します。
フリーゲージトレインに関してはこちらをご覧ください。
しかし、フリーゲージトレインは技術的な課題も多く、JR九州の開発がなかなか進みません。
2016年3月、国は「武雄温泉駅~長崎駅を先行開業、武雄温泉駅では対面乗換え」と申し入れました。
佐賀県は、これに合意、フリーゲージトレインの開発を待ちます。
フル規格新幹線での整備へ
ところが2017年7月、JR九州はフリーゲージトレインによる開発は困難と表明、『フル規格新幹線』での整備を国に要望しました。
フル規格新幹線に関してはこちらをご覧ください。
これに対して、佐賀県は、財政負担の増大などの面から、フル規格での整備に対して反対します。
しかし、国は、2019年8月にフル規格での整備方針を決めたのです。
こうした経緯から佐賀県は猛反発、議論は平行線をたどります。
2. 佐賀県が新幹線整備に反対を示す理由
佐賀県は、そもそも、西九州新幹線の建設に対して明確な反対の意を示しています。
その理由は多岐にわたりますが、主なものを以下に挙げます。
予算の負担
最も大きな理由は、 新幹線にかかる膨大な財政負担 です。佐賀県が新幹線を建設する場合、国との負担割合により、佐賀県は相当な額を支出しなければなりません。
今回の延伸では、 660億円という巨額な費用 が試算されています。
この額は、特殊な事情によって更に増加する可能性があり、県民の負担が増えることに対して拒否感が強まっています。
経済的な視点
新幹線建設によって、 長崎県の路線にのみ恩恵が集中 することも問題視されています。
佐賀県の知事や地域の関係者は、「経済的なメリットは長崎県に偏っており、佐賀県は経済的負担が大きくなっている」と不満を持っています。
この状況に変わりがない限り、佐賀県としては新幹線建設に協力する姿勢にはなりません。
フル規格新幹線への懐疑
フル規格新幹線に切り替わったことで、佐賀県の意見はますます強くなりました。
元々、在来線を活用したフリーゲージトレインの導入が計画されていましたが、その変更に対し「当初の合意が守られない」との批判が強まっています。
このように、計画の変更により、県民の意見が軽視されるのではないかという不安が広がっています。
並行在来線の存続問題
新幹線が開通する際、特に注目されるのがそのルート上に存在する並行在来線です。
長崎本線のような在来線は、これまで地元住民や通勤客にとって重要な交通手段でした。
しかし、新幹線が開通することによって、その利用状況は一変する可能性があります。
新幹線と並行するルートが設定されると、在来線の本数やサービスが大幅に減少し、最悪の場合、廃止されることも考えられます。
新幹線開業の影響
新幹線が接続されると、JR九州は並行する在来線の経営を維持するインセンティブを失うことになります。
並行在来線の利用者が新幹線に流れることで、長崎本線は赤字路線になる可能性が高く、JR九州がその運営を手放す危険性もあるのです。
そのため、長崎本線の運営が第三者に移行することが懸念されています。
地方自治体への負担
もし長崎本線が第三セクター化された場合、それを運営するための費用は、結局は地方自治体に負担がかかることになります。
佐賀県が新幹線の建設に難色を示している背景には、こうした並行在来線の運営を負担することになるリスクがあるのです。
仮に、JR九州が長崎本線を手放すと、地方自治体はその代替手段を検討せざるを得なくなります。
地元住民への影響
並行在来線が廃止された場合、通勤や通学、日常的な移動手段を失う住民にとっては、非常に深刻な問題となります。
生活路線としての役割を果たしている長崎本線が運営を維持できなくなることは、多くの人々の生活に直結する問題です。
特に、鉄道に依存している地域では、移動手段の喪失は大きな打撃となるでしょう。
運営権の移行
長崎本線がJRから第三セクターへ移行する場合、その運営をどのように維持するかが重要な議題となります。
多額の費用がかかるため、自治体としては十分な協議と合意形成が必要です。
投資回収が見込めない状態での運営は、自治体にとっての負担となり、長期的には地域経済に悪影響を及ぼす危険性があるのです。
このように、並行在来線の存続問題は、新幹線開業に伴う大きな課題の一つとして浮上しています。
地域住民の交通手段を確保しつつ、持続可能な交通体系を構築するためには、さまざまな観点からの協議と対策が不可欠です。
地方自治体の独立性
佐賀県が新幹線建設に消極的なのは、 地方自治体としての独立性を守りたい という思いがあるからです。
政府からの一方的な指示で進められる建設計画に対し、県民の意思を無視することはできません。
このため、佐賀県は「新幹線計画そのものが存在しない」と主張し、自らの立場を明確にしています。
3. 国と佐賀県の溝 – フル規格の新線建設
新線建設への移行
フリーゲージトレインの導入が見込めなくなった後、国はフル規格の新線建設を提案しました。
しかし、佐賀県は「条件が異なる」と反発し、地域内での合意形成が不可欠であるとの主張をしています。
下図は、フル規格で整備する場合の案です。国土交通省鉄道局配布資料(概要ルート図)より引用です。
佐賀県のつながりが深いのは福岡県
佐賀県にとって、つながりが深いのは福岡県です。
佐賀駅を通るアセスルートで決まれば、福岡県への在来線特急がなくなる可能性があり、利用者には乗換負担が生じます。
特に1992年に決定されたスーパー特急方式案の尊重を求めており、これがさらなる対立の原因となっています。
地方自治体の重要性
佐賀県は地域振興を目指すあたり、住民の意見を大切にし、負担を軽減する方法を模索する必要があります。
地方自治体として、住民の声を反映させる役割が求められる一方で、国は全国的なインフラ構築を進める使命を果たそうとしており、このような立場の違いから対立が生じています。
国と佐賀県の間でフリーゲージトレインからフル規格の新線建設へ進む過程には、数々の課題が存在します。
これらの問題を解決し、地域の合意を形成することが、新幹線整備を進めるための重要なステップとなるでしょう。
長崎と福岡が新幹線で繋がらない理由 総括
- 佐賀県は「新幹線計画そのものが存在しない」と主張、佐賀県部分が未開通
- 計画が合意の「フリーゲージトレイン」から「フル規格新幹線」に切り替わったため佐賀県が反発
- 佐賀県は、フル規格新幹線の場合、660億円の莫大な財政負担を強いられる
- フル規格新幹線では、並行在来線の存続問題も起こる
- 佐賀県民の多くが、新幹線建設を望んでいない
- 両者の主張の隔たりは大きく、短期的な解決は難しい状況
コメント